9boxとは、社員を「業績(パフォーマンス)」と「ポテンシャル(成長余地)」の2軸で評価し、9つのマスに位置づけて人材の全体像を俯瞰するフレームワークです。人材ポートフォリオを作る最短の道は、いきなり全社員を当てはめることではありません。先に「2軸の定義」と「象限ごとの施策」を決めてから配置する順番が、形だけで終わらせないコツです。
この記事では、9boxで人材ポートフォリオを作る方法を手順で解説します。2軸の決め方、9つの象限それぞれの人材施策、現場で起きやすい失敗と対処をセットで紹介します。
9boxは「2軸を定義してから配置する」と機能する
9boxで人材ポートフォリオを作る流れは、次の5ステップです。
| ステップ | やること | 主な成果物 |
|---|---|---|
| 1. 目的を決める | 9boxで何を判断するかを1つに絞る | 用途の言語化(後継者選定/育成方針 等) |
| 2. 2軸を定義する | 業績・ポテンシャルの評価基準を言葉にする | 各軸3段階の定義(マスタ) |
| 3. 対象者を配置する | 評価と対話で9つの象限に位置づける | 9boxマップ(人材ポートフォリオ) |
| 4. 象限ごとに施策を決める | マスごとに次のアクションを割り当てる | 配置・育成・登用の計画 |
| 5. 定期的に見直す | 半期・年次で位置と施策を更新する | 更新サイクルのルール |
典型的な失敗は、ステップ2を曖昧にしたまま配置を始めたときに起きます。とくに「ポテンシャル」の基準が人によって違うと、同じ社員が評価者ごとに別の象限に入り、ポートフォリオが信頼されなくなります。だからこそ、配置の前に軸を定義しましょう。
9boxとは何か|業績×ポテンシャルの9マス
手順に入る前に、9boxの基本構造を確認しておきましょう。ここを理解しておくと、軸の定義でぶれにくくなります。
もとは事業の投資判断に使われた枠組み
9boxの原型は、1970年代初頭にコンサルティング会社のマッキンゼーがゼネラル・エレクトリック(GE)のために開発した「GE・マッキンゼー・ナインボックス・マトリクス」です。マッキンゼーとGEは、事業ポートフォリオの分析にこの枠組みを使いました。判断材料となる2つの要素は「業界の魅力度」と「競争上の強み」です。対角線より上の事業は投資・成長、対角線上は選択的投資、対角線より下は売却や撤退の候補とする、という使い分けです※1。
現在タレントマネジメントで使われる9boxは、この「2軸で対象を9マスに分け、マスごとに対応を変える」という発想を人材マネジメントへ応用したものです。事業を評価していた2軸が、社員を評価する「業績」と「ポテンシャル」に置き換わったと捉えるとわかりやすくなります。
※1 出典:McKinsey & Company「Enduring Ideas: The GE–McKinsey nine-box matrix」(2026年6月25日閲覧)
縦軸・横軸の基本構造
人材マネジメントの9boxで使う軸は、一般に次の2つです。各軸を高・中・低の3段階で区切り、組み合わせると9つのマスができます。
| 軸 | 何を表すか | 主に使うデータ |
|---|---|---|
| 業績(パフォーマンス) | 現在の職務でどれだけ成果を出しているか | 人事評価、目標達成度、実績 |
| ポテンシャル(成長余地) | より上位・より広い役割を担える将来性 | 行動評価、学習意欲、適応力、上長の見立て |
業績とポテンシャルの違いは混同されやすい点です。業績は「現在の成果」を、ポテンシャルは「これから伸びる余地」を指します。今の成果が高くても、本人の志向や適性から上位役割への伸びしろが限られる場合は、ポテンシャルが高いとは限りません。この2つを切り分けて評価することが、9boxの肝になります。
9box活用の手順
ここでは、9boxを使って人材ポートフォリオを作成するステップを具体的に紹介します。
ステップ1:9boxで「何を判断するか」を決める
まず、9boxを使う目的を1つに絞りましょう。9boxを使う目的が曖昧だと、軸の定義も施策もぶれます。9boxの代表的な用途は次のとおりです。まずは自社で優先度の高いものを1つ選びましょう。
| 用途 | 9boxで答えたい問い |
|---|---|
| 後継者・次世代リーダーの選定 | 重要ポジションを任せられる候補は誰か |
| 育成方針の決定 | どの層に、どんな育成を優先するか |
| 配置・登用の判断 | 抜擢・配置転換の候補はどこにいるか |
| 組織全体の人材状況の把握 | 人材が特定の象限・部門に偏っていないか |
用途を1つに決めると、見るべき対象者の範囲も決まります。たとえば後継者選定が目的なら、対象は全社員ではなく「課長候補となる係長〜主任層」のように絞れます。最初から全社・全階層を一枚に乗せようとせず、目的に直結する範囲から始めましょう。
このステップは、タレントマネジメント全体の進め方とも共通します。目的から逆算して可視化する考え方は「タレントマネジメントの進め方5ステップと管理項目を解説」で詳しく扱っています。
ステップ2:2軸の評価基準を定義する(最重要)
2軸の定義は、9boxの成否を分ける工程です。業績とポテンシャルの「高・中・低」を、誰が見ても同じ判断になるよう言葉で定義しましょう。
業績軸の定義例
業績軸は、既存の人事評価を流用できる場合が多いステップです。直近1〜2期の評価をもとに3段階へ分類します。
単年ではなく2期分を見るのは、大型案件の有無や異動の影響で1期だけ数字が振れることがあるためです。評価が「高→低」と大きく動いている社員は、その理由を上長に確認してから段階を決めましょう。
| 段階 | 状態の定義(例) |
|---|---|
| 高 | 期待を上回る成果。役割の要求水準を継続して超えている |
| 中 | 期待どおりの成果。役割を安定して果たしている |
| 低 | 期待を下回る。成果が安定せず、支援や改善が必要 |
ポテンシャル軸の定義例
ポテンシャル軸は基準が曖昧になりやすく、評価者の主観が入りがちです。「現在の成果」ではなく「上位・より広い役割への伸びしろ」を見る軸だと明確にしましょう。そのうえで、観察できる行動で定義してください。
| 段階 | 状態の定義(例) |
|---|---|
| 高 | 上位役割への意欲と適応力が高い。新しい環境で早期に成果を出せる |
| 中 | 現在の役割で安定。一定の育成で役割拡大が見込める |
| 低 | 現在の役割への適性が高い。上位役割への志向・伸びしろは現時点で限定的 |
ポテンシャルが「低」であることは、評価が低いという意味ではありません。現在の専門領域で高い価値を発揮するスペシャリストは、業績が高くポテンシャルが「中〜低」に位置することがあります。軸の意味を取り違えないよう、評価者へ事前に共有しておきましょう。
評価に使う管理項目をどう設計し、習熟度をどう尺度化するかは「スキルマップの作り方|職種別の記入例とレベル定義を解説」で、すぐに使えるExcelテンプレートとあわせて解説しています。軸の定義づくりとあわせて進めると、評価基準をそろえやすくなります。
運用上のコツ
こうした複数視点での目線合わせは、企業によって「キャリブレーション(評価調整会議)」や「タレントレビュー」と呼ばれます。呼び方によらず、運用のコツは次のとおりです。
- 評価者を1人にせず、上長と人事など複数の視点ですり合わせる(一人の主観に依存させない)
- 「高・中・低」の判断例を1〜2件ずつ用意し、評価者間で目線を合わせる
- 評価時期を人事評価や面談など既存イベントに紐づけ、特別な作業を増やさない
ステップ3:対象者を9つの象限に配置する
軸を定義したら、対象者を9つのマスに位置づけましょう。ここで初めて「人材ポートフォリオ」の形が見えてきます。
9象限の早見表
下表は、縦に業績(高・中・低)、横にポテンシャル(高・中・低)を取った9象限の早見表です。象限の呼び名は、社内で共通化できれば任意です。ただし、各マスが「どんな状態の人材か」を一言でいえる状態にしておいてください。
| 業績\ポテンシャル | ポテンシャル高 | ポテンシャル中 | ポテンシャル低 |
|---|---|---|---|
| 業績 高 | 次世代リーダー候補 | 高業績者 | 高度専門人材(スペシャリスト) |
| 業績 中 | 成長期待人材 | 中核人材 | 安定貢献人材 |
| 業績 低 | 要因分析が必要な人材 | 育成・支援対象 | 配置・役割の再検討対象 |
配置はデータだけで決めない
配置はデータだけで機械的に決めず、上長との対話で補正しましょう。評価期間の偏り(異動直後・大型案件の有無など)で一時的に業績が上下することがあるためです。「この位置で違和感がないか」を現場と確認する一手間が、ポートフォリオの納得感を高めます。
配置が終わったら、各象限に「何名いるか」を数えましょう。たとえば次世代リーダー候補が極端に少ない、特定部門に育成対象が偏っている、といった組織全体の傾向が見えてきます。これが人材ポートフォリオから読み取れる最初の気づきです。
ステップ4:9象限ごとに人材施策を決める
9boxは、配置して終わりではありません。各象限に「次のアクション」を割り当てて初めて、配置・育成・登用の施策につながります。ここが可視化を成果に変える分岐点です。
9象限別の施策一覧
下表は、9象限それぞれの代表的な施策をまとめたものです。自社の状況に合わせて調整してください。
| 象限 | 人材の特徴 | 主な施策の方向性 |
|---|---|---|
| 業績高×ポテンシャル高(次世代リーダー候補) | 成果も伸びしろも高い | 重要ポジションの後継候補に。ストレッチ配置・選抜研修で計画的に経験を付与 |
| 業績中×ポテンシャル高(成長期待人材) | 伸びしろは高いが成果はこれから | 成果を出せる場を用意。挑戦機会・OJT・メンタリングで業績の引き上げを支援 |
| 業績低×ポテンシャル高(要因分析が必要な人材) | 伸びしろはあるが成果が出ていない | 業績が低い要因を対話で特定。ミスマッチなら配置転換、能力面なら育成で対応 |
| 業績高×ポテンシャル中(高業績者) | 安定して高い成果 | 現役割での貢献を評価・処遇。本人の志向次第で役割拡大も検討 |
| 業績中×ポテンシャル中(中核人材) | 組織を支える層 | 現役割での安定貢献を支援。スキル強化で次の段階への移行を後押し |
| 業績低×ポテンシャル中(育成・支援対象) | 成果が安定しない | 目標設定や役割の見直し、1on1での支援。短期の改善計画を設定 |
| 業績高×ポテンシャル低(高度専門人材) | 専門領域で高い価値 | 専門職として処遇・キャリアパスを整備。マネジメント以外の活躍ルートを用意 |
| 業績中×ポテンシャル低(安定貢献人材) | 現役割で堅実に貢献 | 現在の役割を継続。専門性の深化やナレッジ共有の担い手として活用 |
| 業績低×ポテンシャル低(再検討対象) | 成果・伸びしろともに低い | 適性に合う配置・役割を再検討。対話で本人の希望と適性を確認 |
象限の名前でレッテルを貼らない
施策を割り当てるときは、「象限の名前」でレッテルを貼らないよう注意しましょう。9boxは人材を選別してふるいにかける道具ではなく、一人ひとりに合った支援・配置を考えるための見取り図です。とくに業績が低い象限は、評価を下すためではなく、要因を分析して対応を変えるために使ってください。
ほかの企業が人材データをどう施策へ展開しているかは「タレントマネジメントの事例|成果につながった取り組みを紹介」で確認できます。
ステップ5:定期的に見直し、人材ポートフォリオを更新する
9boxは一度作って終わりにはなりません。人材の業績やポテンシャルは、配置・育成・本人の成長によって変わるためです。評価サイクルに合わせて更新しましょう。
更新のポイントは次のとおりです。
- 更新の頻度:半期や年次など、人事評価のサイクルに合わせて見直す
- 動きを見る:前回からマスを移動した人材に注目し、施策の効果で上位象限へ動いたか、逆に下がっていないかを確認する
- 施策の検証:象限ごとに割り当てた施策が機能したかを確認し、次サイクルの施策を調整する
象限間の「移動」を追うことで、9boxは静的な分類表から、育成・配置の効果を測る道具に変わります。たとえば「成長期待人材(業績中×ポテンシャル高)」に挑戦機会を与えた結果、翌期に「次世代リーダー候補」へ動いたなら、その施策は機能したと判断できます。
9boxでよくある失敗と対処法
9boxは有用な枠組みですが、使い方を誤ると形骸化したり、現場の不信を招いたりします。代表的な失敗と対処は次のとおりです。
| よくある失敗 | 何が起きるか | 対処法 |
|---|---|---|
| 2軸の定義が曖昧なまま配置する | 評価者ごとに位置がぶれ、ポートフォリオが信頼されない | ステップ2で「高・中・低」を行動レベルで定義し、評価者の目線を合わせる |
| ポテンシャルを業績で代用する | 「現在の成果」と「将来性」が混ざり、専門人材が不当に低く出る | ポテンシャルは「上位役割への伸びしろ」と明確化し、別の観点で評価する |
| 配置して満足し、施策につながらない | きれいな図を作っただけで、配置・育成が変わらない | 配置前に象限ごとの「次のアクション」を決めておく(ステップ4) |
| 象限のレッテルで人を選別する | 低評価とみなされた社員のモチベーションが下がる | 選別ではなく支援・配置の道具と位置づけ、本人へ点数化した結果を直接通知しない |
| 一度作って更新しない | 人材の変化が反映されず、古い前提で判断してしまう | 評価サイクルに合わせて定期更新し、象限間の移動を追う(ステップ5) |
| 評価結果を社員に直接開示してしまう | 「自分は低ポテンシャルだ」と受け取られ、信頼関係を損なう | 9boxは人事の検討資料として扱いましょう。本人へのフィードバックは育成・配置の文脈でおこなう |
これらの失敗の多くは、タレントマネジメント全般に共通する落とし穴とも重なります。可視化が施策に接続しない、データが更新されないといった課題の全体像は「タレントマネジメントの課題7つ|失敗パターンと対処法を解説」で、導入前に理解しておきたい負の側面と対処は「タレントマネジメントのデメリット6つと対処法を解説」で扱っています。
人材ポートフォリオを「戦略」につなげる
9boxで作った人材ポートフォリオは、個人の配置・育成だけでなく、組織全体の人材戦略にもつながります。
経済産業省は2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました。同レポートは、経営戦略と連動した人材戦略の重要性を示しています。共通要素の一つとして挙げられているのが「動的な人材ポートフォリオ」です※2。事業環境の変化を見据え、必要な人材構成へ計画的に近づけていくという発想です。
9boxは、この「動的な人材ポートフォリオ」を現場で実践する具体的な道具です。各象限の人数や偏りを定期的に見ることで、「次世代リーダー候補が不足している」「特定領域の専門人材が手薄」といった、経営戦略と人材構成のギャップが見えてきます。9boxは個人の見取り図であると同時に、組織の人材戦略を考える材料にもなります。
※2 出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~」(2026年10月13日閲覧)
ツールで9boxを運用する場合
9boxを回すツールは、対象人数と更新の頻度で選び分けましょう。
数十名規模ならExcelで足りる
9boxは、まずはExcelやスプレッドシートでも作成できます。数十名規模であれば、評価とポテンシャルを列に持ち、9マスの表に手作業で配置するところから始められます。
システムを検討するのは運用負荷が課題になってから
対象人数が増えると、評価データとの自動連携、過去のマップとの比較、象限間の移動の追跡などを手作業でおこなう負荷が大きくなります。タレントマネジメントシステムには、人事データから9boxを自動生成し、条件を変えて配置をシミュレーションできる機能を備えたものがあります。運用負荷が課題になってきた段階で検討しましょう。
システムの機能の違いや選び方の観点は「タレントマネジメントシステムとは|機能と選び方を解説」で整理しています。
9boxに関するよくある質問(FAQ)
ここでは、9boxについてのよくある質問に回答します。
A. 同じものです。「9box(ナインボックス)」「9ボックス」「9ブロック」などと表記されますが、いずれも業績とポテンシャルの2軸で社員を9つのマスに分類するフレームワークを指します。この記事では「9box」で統一します。呼び名より、自社で2軸の定義と象限ごとの施策をそろえる点が重要です。
A. 業績は「現在の職務でどれだけ成果を出しているか」、ポテンシャルは「より上位・より広い役割を担える将来性」を指します。今の成果が高くても、本人の志向や適性から上位役割への伸びしろが限られる場合は、ポテンシャルが高いとは限りません。専門領域で高い価値を出すスペシャリストは、業績が高くポテンシャルが中〜低に位置することがあります。この2つを切り分けて評価することが9boxの肝です。
A. 「観察できる行動」で基準を定義し、評価者を一人に限定しない体制が有効です。たとえば「新しい環境で早期に成果を出せる」「上位役割への意欲がある」など、行動レベルで高・中・低を定義しましょう。そのうえで上長と人事など複数の視点ですり合わせ、判断例を共有して目線を合わせましょう。この目線合わせは、企業によって「キャリブレーション(評価調整会議)」や「タレントレビュー」と呼ばれます。1人の主観に依存させない仕組みが、評価のばらつきを抑えます。
A. 点数化した象限の位置は、そのまま本人へ通知しないでください。「自分は低ポテンシャルだ」と受け取られ、信頼関係を損なうおそれがあるためです。9boxは人事の検討資料として扱いましょう。本人へのフィードバックは「次にどんな経験を積むとよいか」といった育成・配置の文脈でおこなってください。選別ではなく支援の道具として位置づける姿勢が大切です。
A. 作れます。数十名規模であれば、評価とポテンシャルを列に持ち、9マスの表に手作業で配置するところから始められます。対象人数が増え、評価データとの連携・過去マップとの比較・象限間の移動の追跡などの負荷が大きくなった段階で、タレントマネジメントシステムの導入を検討しましょう。
まとめ:軸を定義し、象限ごとに施策を決める
9boxのマップそのものは、人事の会議で30分もあれば埋められます。しかし配置し終えた直後には、決まって「この人はここではない」という声が出ます。異論が出ること自体は失敗ではなく、評価者の見立てが初めて突き合わされた証拠です。1枚目は合意形成のたたき台と割り切り、議論の結果を軸の定義文へ書き戻しましょう。
9boxを人材データの整備や配置検討へつなげる手順は、「タレントマネジメントとは|目的・進め方・事例まで完全ガイド」で確認できます。




