タレントマネジメントは、システムを契約することから始めるとつまずきます。正しい順番は「目的を定める→管理項目を決める→可視化する→施策に落とす→測定して改善する」の5ステップです。先にデータの土台と目的を固めるほうが、遠回りに見えて定着への近道です。
この記事では、タレントマネジメントの進め方を5つのステップに分けて解説します。各ステップで「何を成果物として出すか」「どの管理項目を扱うか」「どこでつまずきやすく、どう対処するか」をセットで紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
タレントマネジメントの進め方は「目的→管理項目→可視化→施策→測定」の5ステップ
タレントマネジメントの進め方は、次の5ステップで考えると全体像を整理しやすくなります。上から順に進めると、途中で形骸化しにくくなります。
| ステップ | やること | 主な成果物 |
|---|---|---|
| 1. 目的を定める | 解決すべき人事課題を1〜2点に絞る | 目的・ゴールの言語化、評価指標 |
| 2. 管理項目を決める | 目的に必要な人材情報を定義する | 管理項目リスト、項目の定義(マスタ) |
| 3. 可視化する | 情報を集約し分析できる状態にする | スキルマップ、人材ポートフォリオ |
| 4. 施策に落とす | 配置・育成・登用の施策に変える | 配置・育成計画、後継者リスト |
| 5. 測定して改善する | 効果を測り運用を見直す | 効果測定レポート、次サイクルの計画 |
典型的な失敗は、この順番を逆から進めたときに起きます。システムを先に決め、その機能に合わせて目的や管理項目を後付けすると、データが入らず使われない状態に陥りがちです。導入の前提となる課題の構造は「タレントマネジメントの課題7つ|失敗パターンと対処法を解説」で詳しく扱っています。
なぜ「目的」から始めるのか:順番が成否を分ける
タレントマネジメントが定着するかどうかは、最初の目的設定に大きく左右されます。
「目指す姿」がなければギャップは測れない
人的資本経営をめぐっては、2020年公表の初版「人材版伊藤レポート」が「3つの視点・5つの共通要素」(一般に3P・5Fモデルと呼ばれます)を示しました。この枠組みに沿って、経済産業省は2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめ、実践に向けた取り組みを具体化しています※1。3つの視点は、「経営戦略と人材戦略の連動」「目指す姿と現状のギャップの把握」などです※1。
ギャップを把握するには、その前提として「目指す姿」が必要です。目的=目指す姿が定まっていなければ、何のデータを集め、どこを埋めるべきかが決まりません。進め方の各ステップは、この「目的を起点に逆算する」考え方で一本につながっています。
人事のテーマは広い
目的を飛ばしてタレントマネジメントを始めると、焦点がぼやけやすくなります。人事部が担うテーマは、採用・育成から人事制度の見直し、人材配置、人材戦略・人員計画の策定まで多岐にわたるためです。
これらをすべて同時に狙うと頓挫しやすくなります。だからこそ、最初に目的を1〜2点へ絞りましょう。どれを選んでも、残りのテーマが消えるわけではありません。
※1 出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~」(2026年10月13日閲覧)
タレントマネジメントの進め方5ステップ
ここでは具体的に、タレントマネジメントの進め方を5つのステップに分けて紹介します。
ステップ1:目的とゴールを定める
まずは「何のために取り組むのか」を言葉にしましょう。目的が曖昧だと、後続のすべてがぶれます。
目的を1〜2点に絞る
タレントマネジメントで狙える成果は幅広い一方、最初から全方位を狙うと長くは続きません。まずは自社で痛みの大きい人事課題を1〜2点に絞りましょう。よくある目的の例は次のとおりです。
| 目的の例 | 起点となる課題 |
|---|---|
| 後継者・次世代リーダーの確保 | 重要ポジションの後継者が見えていない |
| 配置の最適化(適材適所) | 配置が勘や年功に依存している |
| エンゲージメント・定着の向上 | 活躍してほしい人材が離職している |
| 人的資本の情報開示への対応 | 開示に必要な人材データが整っていない |
絞り込みのコツは、「経営が今いちばん困っていること」と結びつけることです。経営戦略と接続した目的は、現場の協力も経営の予算も得やすくなります。
このステップの成果物と管理項目
このステップの成果物と、決めておきたい管理の単位は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な成果物 | 目的・ゴールの言語化、対象範囲(全社/特定階層)、評価指標の仮置き |
| この段階で決める「管理する単位」 | 対象とする社員層(例:管理職候補、特定部門)、達成したい状態 |
評価指標は、この段階で仮に置き、「管理職候補の特定数」「特定部門の離職率」「配置の納得度」など目的に直結する指標を1〜2個決めて、現状の数値を記録しておきましょう。後から効果を語れるかどうかは、ここで分かれます。
ステップ2:必要な人材情報(管理項目)を定義する
目的が決まったら、その達成に必要な人材情報=管理項目を定義しましょう。タレントマネジメントの土台になる、もっとも実務的なステップです。
管理項目は「使う情報」から逆算して絞る
ありがちな失敗は「とりあえず全部集める」ことです。項目を増やすほど現場の入力負担が増えます。異動や昇格が生じてもシステムへの反映が後回しになり、データは実態から離れていきます。
そこでステップ1の目的から逆算し、「その判断に本当に使う情報」だけを管理項目に選んでください。次の表は、タレントマネジメントでよく扱う管理項目を6カテゴリに整理したものです。すべてを最初からそろえる必要はなく、目的に直結するカテゴリから着手しましょう。
| カテゴリ | 主な管理項目 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 基本情報 | 氏名・年齢・入社年・所属・等級・役職 | 全施策の土台、属性別の分析 |
| 経歴・異動 | 職務経歴、異動履歴、プロジェクト経験 | 配置検討、後継者の経験設計 |
| スキル・資格 | 保有スキルと習熟度、資格、語学 | スキルマップ、要員計画 |
| 評価・実績 | 人事評価、目標達成度、業績 | 9boxの業績軸、登用判断 |
| 志向・キャリア | 異動希望、キャリアビジョン、強み・関心 | 適材適所、エンゲージメント |
| 育成・学習 | 研修受講歴、学習計画、面談記録 | 育成計画、ギャップの把握 |
スキルの管理項目をどう設計し、習熟度をどう尺度化するかは「スキルマップの作り方|職種別の記入例とレベル定義を解説」で、すぐに使えるExcelテンプレートとあわせて解説しています。まずはここから着手すると可視化しやすくなります。
項目の「定義(マスタ)」をそろえる
管理項目を選んだら、項目の意味と粒度をそろえましょう。たとえば「スキルレベル」を5段階にするなら、各段階の状態(1=知識のみ/3=独力で遂行/5=指導できる、など)を言葉で定義し、社員番号などの共通キーをそろえておくと、後でデータを突き合わせる工数が大きく減ります。
人事系システムごとにデータが分散していると、突き合わせのたびに工数がかかります。着手前に「どの情報を、どこで一元管理するか」を決めておきましょう。
ステップ3:人材情報を可視化・分析する
管理項目に沿って情報を集めたら、見える状態に変えましょう。データは集めただけでは意味を持たず、可視化して初めて判断材料になります。
目的に応じて可視化の切り口を選ぶ
可視化の手法は、目的によって使い分けましょう。まずは代表的な次の2つを押さえてください。
| 可視化手法 | 何がわかるか | 向いている目的 |
|---|---|---|
| スキルマップ | 誰が何をどの程度できるか(能力の分布) | 配置の最適化、育成対象の特定、要員計画 |
| 9box(ナインボックス) | 業績×ポテンシャルで人材の現在地を俯瞰 | 後継者の選定、登用・育成方針の決定 |
スキルマップは「能力の地図」、9boxは「人材の見取り図」と捉えるとわかりやすくなります。9boxの2軸の定義と、各象限でどんな人材施策をとるかは「9boxとは|人材ポートフォリオの作り方と9象限ごとの人材施策を解説」で解説しています。
可視化で「問い」に答える
可視化のゴールは、きれいな図を作ることではなく、目的に直結する問いに答えることです。「次の管理職候補は誰か」「育成が必要な層はどこか」「離職の兆候がある部門はどこか」といった具体的な問いを立て、それに答える形でデータを並べます。
分析の人手やスキルが足りないことは、よくあるつまずきです。最初から高度な統計分析を目指さず、まずは一覧と簡単な集計で「気づき」を1つ得るところから始めましょう。
ステップ4:配置・育成・登用の施策に落とす
可視化で見えた課題を、具体的な施策に変えるステップです。ここがタレントマネジメントの本来の目的です。可視化を成果に変える分岐点になります。
データと対話を組み合わせる
可視化したデータは、あくまで判断材料です。最終的な配置・育成の意思決定には、現場マネージャーや本人との対話が必要です。データだけで配置を決めると納得感を失い、対話だけで決めると勘や属人性に戻ってしまいます。両者を組み合わせることで、根拠と納得の両方を備えた運用になります。
施策は、目的に応じて次のように分かれます。
| 目的 | 主な施策 | 使う管理項目 |
|---|---|---|
| 適材適所の配置 | 配置・異動、社内公募 | スキル、志向、経歴 |
| 育成 | 研修計画、OJT、ストレッチ配置 | スキルギャップ、評価、育成履歴 |
| 後継者確保 | 後継候補の選定、計画的な経験付与 | 9boxの位置、経歴、評価 |
| 定着 | 1on1、キャリア面談、配置調整 | 志向、エンゲージメント、評価 |
既存の人事運用に接続する
施策が評価・等級・配置といった既存の人事運用から切り離されていると、可視化しても具体的な対応につながりません。タレントマネジメントを単独の取り組みにせず、既存の運用サイクルに組み込みましょう。評価や異動の時期に自動的に出番が来る形にしておくと、運用が止まりにくくなります。実在企業の開示を見ると、接続の工夫は2方向に分かれます。
本人の志向を吸い上げる仕組み|カゴメの自己申告・社内公募
カゴメは、中長期のキャリアプランや能力開発の取り組みを上司・部下間で共有する「自己申告制度」と、社員が自ら手を挙げて希望する仕事に就く機会を増やす「キャリア異動希望制度・社内公募制度」を設けています。社内公募制度では、会社が随時定める「特定ポジション」について異動候補者を公募し、書類や面接による審査・決定をおこなうと説明しています※2。
どちらも、可視化した情報を人事が抱え込まず、本人が動ける導線に変えた仕組みです。
後継者を育てる仕組み|カゴメの人材開発委員会
同社は経営陣による審議・意思決定を伴う会議体として「人材開発委員会」を置き、後継者育成計画のために全役員を対象とする研修を2016年度から実施しています※2。新しい制度を足すのではなく、すでにある会議体と研修の枠に人材の議題を載せている点が要点です。30〜300名規模でも、経営会議の議題に「次の管理職候補」を定例で入れるところから同じ形を作れます。
ほかの企業がどう施策へ落としているかは「タレントマネジメントの事例|成果につながった取り組みを紹介」で、自社に近い規模・業種の例を探してみましょう。
※2 出典:カゴメ「従業員の能力・モチベーションの向上」、カゴメ「ガバナンス」(2026年8月17日閲覧)
ステップ5:効果を測定し、改善する
最後のステップは、施策の効果を測り、運用を改善することです。タレントマネジメントは一度作って終わりにはなりません。サイクルを回すたびに、管理項目も指標も自社の実態へ近づいていきます。
ステップ1で決めた指標で測る
効果測定は、ステップ1で仮置きした評価指標に立ち返っておこないましょう。新しい指標を後から探すのではなく、最初に決めた指標の「導入前→導入後」を比べることがポイントです。
| 目的 | 測定する指標の例 |
|---|---|
| 後継者確保 | 後継候補が特定できたポジション数、準備度 |
| 配置の最適化 | 配置・異動の納得度、適性とのマッチ度 |
| エンゲージメント・定着 | サーベイのスコア、対象層の離職率 |
| 情報開示への対応 | 開示に必要な指標の整備状況 |
指標は自社の状況に合わせて設定してください。完璧な効果測定を目指すより、「説明できる指標」を1〜2個持つことを優先します。効果が見えないと、経営の支持も現場の納得も得にくくなるためです。
PDCAを回し、管理項目を見直す
測定で得た気づきは、「この管理項目は使わなかった」「この粒度では判断できなかった」といった学びとして、ステップ2の管理項目の見直しに反映してください。最初から完璧な設計を目指さず、小さく始めて改善を重ねるほうが、結果的に早く定着します。
進め方の具体例(30〜300名規模のイメージ)
ここでは、モデルケースを使って5ステップの流れを紹介します。
設定:従業員300名のメーカー。課題は「主要部門の課長候補が見えておらず、登用が場当たり的」。
- ステップ1(目的):「2年以内に、主要3部門それぞれで課長候補を2名ずつ特定・育成する」と定義し、指標は「候補が特定できた部門数」「候補の準備度」とする
- ステップ2(管理項目):対象を係長〜主任層に絞り、評価・経歴・スキル・本人のキャリア志向の4カテゴリを管理項目に設定し、スキルは5段階で定義をそろえる
- ステップ3(可視化):対象層を9boxに配置し、業績・ポテンシャルともに高い層を候補プールとして抽出
- ステップ4(施策):候補に対し、不足する経験(他部門・マネジメント)をストレッチ配置とOJTで計画的に付与し、本人面談で志向を確認する
- ステップ5(測定):半期ごとに準備度を更新し、候補プールと育成計画を見直す
このモデルケースでは、最初から全社・全項目を狙わず、「主要3部門の課長候補」という小さな範囲で1サイクルを完了させています。最初の成功体験を1つ作ることが、全社展開への足がかりになります。
システムは「進め方を固めてから」検討する
5つのステップを進めると、システム導入の要否は自然に見えてきます。数十名規模であれば、Excelやスプレッドシートでもスキルマップやデータベースをつくれるでしょう。一方、対象人数や管理項目が増えると運用負荷が無視できなくなります。最新化が追いつかない、複数人で同時に更新できない、推移を追いにくいといった問題が出てくるためです。
システムは、この運用負荷が課題になった段階で検討しましょう。ステップ1〜5で固めた「目的」と「管理項目」を要件として持ち込み、それを満たす道具を選んでください。多機能なシステムでも、目的が定まっていなければ活用されません。
タレントマネジメントシステムの機能の違いや選び方は「タレントマネジメントシステムとは|機能と選び方を解説」で解説しています。あわせて、導入前に負の側面も理解しておきたい方は「タレントマネジメントのデメリット6つと対処法を解説」もご確認ください。
タレントマネジメントの進め方に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、タレントマネジメントの進め方についてのよくある質問に回答します。
A. 「何のために取り組むのか」という目的を1〜2点に絞るところから始めましょう。集めるべき人材情報(管理項目)は、目的が定まってはじめて決まるものです。システムの選定や全社一斉のデータ収集から始めると、目的に合わないデータが集まり、形骸化しやすくなります。まずは痛みの大きい課題を1つ選び、対象範囲を絞って小さく始めましょう。
A. 目的によって変わりますが、基本情報(所属・等級など)に加え、目的に直結するカテゴリから選びます。配置や育成が目的なら「スキル・資格」「評価・実績」「キャリア志向」が中心になります。全項目を最初からそろえる必要はありません。入力負荷が高いとデータが更新されず古くなるため、まずは「実際に判断へ使う項目」だけに絞りましょう。
A. 範囲によって異なるため一概にはいえません。全社・全項目を一度に整えようとすると長期化し、頓挫しやすくなります。特定階層・特定部門に絞れば、目的設定から最初の施策・測定まで1サイクルを比較的短期間で回せます。期間を短くするコツは、対象範囲を絞り、最初の成功体験を1つ作ることに集中することです。
A. 進め方の5ステップで「目的」と「管理項目」を固めてから検討しましょう。数十名規模ならExcelやスプレッドシートでも始められます。対象人数や管理項目が増え、最新化や同時更新、推移の管理が負担になってきた段階で、固めた要件を満たすシステムを検討しましょう。
A. 可視化と施策の間です。スキルマップや9boxを作って満足してしまい、配置・育成の実行につながらないケースが多くみられます。これを防ぐには、可視化の前に「この図で何を判断するか」を決め、象限やスコアごとに次のアクションを用意しておく必要があります。
まとめ:小さく始め、1サイクル回しきる
タレントマネジメントは、規模の小さい会社ほど早く1周させられます。社員数が少なければ、可視化した結果を持って経営に相談するまでの距離が短いからです。それでも着手が遅れるのは、他社の事例に出てくる項目数や画面を基準にしてしまうためでしょう。自社の1周目は、対象を1部署、管理項目を5つに絞って対応することをおすすめします。
タレントマネジメントの全体像は、「タレントマネジメントとは|目的・進め方・事例まで完全ガイド」でまとめて確認できます。




