離職率が高い原因は、給与や待遇だけではありません。退職者の本音を尋ねた調査では、最も多い理由は「人間関係」であるとされています。多くの場合、辞める理由は「お金」より「職場のあり方」にあります。
本記事では、離職率が高い会社に共通する特徴と原因を7つに整理し、見逃せない兆候と、コストと効果で優先順位をつけた防止策までを、公的データと実態調査をもとに解説します。
離職率が高い原因は「待遇」より「関係性と納得感」に偏る
離職率が高い会社の原因は、給与の絶対額そのものよりも、人間関係・評価への納得感・成長実感の欠如に偏ります。
退職者の本音を尋ねた調査では、辞めた理由として最も多く挙げられるのが「人間関係」であるとされています。実際には、半数以上の退職者が会社に本当の退職理由を伝えていないとされ、その最多の理由は「話しても理解してもらえないと思ったから」というものです。
ここで重要なのは次の2点です。
- お金は「最後のひと押し」になりやすいものの、根っこには人間関係や納得感の問題が隠れている
- 会社が把握している退職理由は本音とずれているため、表面的な理由だけを見ると対策を誤りやすい
離職率が高い会社ほど「給与を上げれば解決する」と考えがちです。原因の構造を取り違えると、コストをかけても辞める人は減りません。
なお、自社の離職率がそもそも高いのかどうかを正確に把握したい方は、先に以下の記事を参考にして数値を出すことをおすすめします。
データで見る:日本の離職率と「辞める理由」の実態
離職の原因を考える前に、まずは物差しとなる全国データを押さえましょう。全国データは、自社の離職率が「高い」のかを判断する基準になります。
全国の離職率
厚生労働省の「雇用動向調査」は、全国の事業所を対象にした代表的な公的統計です。令和7年(2025年)の結果は次のとおりです※1。
| 指標 | 数値(令和7年・2025年) |
|---|---|
| 全体の離職率 | 13.7% |
| 男性の離職率 | 12.5% |
| 女性の離職率 | 15.1% |
| 一般労働者の離職率 | 11.4% |
| パートタイム労働者の離職率 | 19.9% |
離職率は「その年の初めにいた常用労働者数に対する、1年間の離職者数の割合」です。雇用形態によって水準が大きく異なるため、パートタイム比率が高い職場ほど、全国平均との比較では数値が高く出やすい点に注意しましょう。自社の構成に近い区分と比べるのが適切です。
全国の退職理由
退職理由についても、同じ調査が「転職入職者が前職を辞めた理由」を集計しています。「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」を除いた上位は次のとおりです。
| 区分 | 上位の退職理由(「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」を除く) |
|---|---|
| 男性 | 1位「定年・契約期間の満了」16.1%/2位「給料等収入が少なかった」9.9% |
| 女性 | 1位「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.9%/2位「職場の人間関係が好ましくなかった」11.5% |
※1 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
「公式の退職理由」と「本音」はずれる
ここで注意したいのが、公的統計に表れる退職理由は、あくまで会社や調査に対して語られた理由だという点です。本音を尋ねた調査では、会社には当たり障りのない理由を伝え、実際の不満は別にあるというケースが多いことが指摘されています。
つまり、退職面談で得た理由をそのまま信じると、本当の原因を見逃します。原因分析では「語られた理由」と「本音」の両方を意識する必要があります。
新卒・若手に絞った離職傾向や、業界ごとの水準は以下の記事でご覧ください。
離職率が高い会社の特徴と原因7つ
離職率が高い会社に共通して見られる原因を、影響の大きい順に7つ挙げます。自社に当てはまるものがないか、チェックしながら読み進めてください。
| # | 原因 | 社員が感じること | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 1 | 人間関係・上司との関係が悪い | 「この上司の下では働けない」 | 1on1・マネージャー育成 |
| 2 | 評価に納得できない | 「何を頑張れば報われるのか不明」 | 評価基準の明確化・面談 |
| 3 | 給与・待遇が見合わない | 「成果に対して給料が低い」 | 報酬と評価の連動 |
| 4 | 成長・キャリアが見えない | 「この会社にいても先がない」 | キャリアパス・育成機会 |
| 5 | 長時間労働・休めない | 「身体がもたない」 | 労働時間管理・業務分配 |
| 6 | 入社後の立ち上がり支援不足 | 「放置されている」 | オンボーディング設計 |
| 7 | 経営・組織への不信 | 「会社の将来が不安」 | 理念浸透・情報共有 |
原因1:人間関係・上司との関係が悪い
最も影響が大きく、本音の退職理由として常に上位に来るのが人間関係です。とりわけ「直属の上司との関係」は、退職の意思決定を左右するとされます。
中小企業では、部署が小さく上司との距離が近いぶん、相性の悪さが逃げ場のないストレスになりやすい傾向があります。上司のマネジメントスキルが属人的で、研修も受けていないケースが少なくありません。「上司ガチャ」と呼ばれる状態が放置されると、優秀な人ほど静かに去ります。
退職を決める前には、必ず兆候が出ます。上司の関わり方を見直すことは、離職防止のなかでも費用対効果の高い対策です。
原因2:評価に納得できない
「頑張っても正当に評価されない」「何を基準に評価されているのか分からない」という不満は、離職の強い引き金になります。
社員を退職に向かわせるのは、評価の高低そのものではありません。評価の理由が説明されない、改善の道筋が見えないという運用上の欠陥が、不満の正体です。評価が低くても、理由が明確でアドバイスがあり、挽回の道が見えていれば、人は踏みとどまります。逆に、基準があいまいなまま結果だけ通知されると、納得感は生まれません。
評価への不満は、給与不満や成長不安と結びついて退職へ向かいます。評価制度そのものの納得感を高めることが、定着の土台になります。
原因3:給与・待遇が成果に見合わない
給与は、単独で1位の退職理由になることは多くありませんが、他の不満と結びついたときに「最後のひと押し」になります。前述の公的統計でも、男性の退職理由の上位に「給料等収入が少なかった」が入っています※2。
問題になりやすいのは、絶対額よりも「成果や貢献に対して報酬が連動していない」と感じられる状態です。高評価でも昇給につながらない、頑張っても給料が変わらないという状況は、評価への不満と同じ根を持ちます。給与水準の見直しに加え、評価と報酬のつながりを社員に見える形で示すと、納得感が高まります。
※2 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
原因4:成長・キャリアの先が見えない
「この会社にいても成長できない」「数年後の自分の姿が描けない」という不安は、20〜30代を中心とした若手層の離職を後押ししやすくなります。
中小企業ではポストが限られ、キャリアパスが言語化されていないことが少なくありません。日々の業務に追われ、育成や挑戦の機会が用意されていないと、向上心のある人ほど外に機会を求めます。キャリアの選択肢を社内に示せるかどうかが、定着を分けます。
原因5:長時間労働・休みが取りにくい
労働時間や休日の条件は、とくに女性の退職理由として上位に挙がる項目です※3。
慢性的な長時間労働や、休暇が取りづらい空気は、心身の消耗を通じて離職に直結します。人員に余裕のない中小企業では、特定の人に業務が集中しやすく、その人から辞めていくという悪循環も起こりがちです。業務量の偏りと労働時間を「見える化」し、属人化を解消することが対策になります。
※3 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
原因6:入社後の立ち上がり支援が不足している
採用に力を入れても、入社後の受け入れが手薄だと、早期離職につながります。「放置されている」「質問できる相手がいない」と感じた新入社員は、数か月で見切りをつけることがあります。
中小企業では、教育担当を専任で置けず、現場任せ・OJT任せになりがちです。立ち上がり期の支援が弱いと、採用コストが回収できないまま人が抜けるという損失が積み重なります。
原因7:経営・組織への不信や将来不安
「会社の方針が見えない」「経営層を信頼できない」「将来が不安」という組織全体への不信も、離職率を押し上げます。
この不安は無視できません。厚生労働省の調査では、男性が前職を辞めた理由のうち、「その他の個人的理由」を除くと、前年からの上昇幅が最も大きかったのは「会社の将来が不安だった」(2.2ポイント増)でした※4。理念やビジョンが共有されない、経営の意思決定がブラックボックスになっている状態は、社員のエンゲージメント(仕事への前向きな関与)を下げます。
エンゲージメントが高い組織ほど、退職率が低い傾向があるとする調査結果も報告されています。この傾向は、一般社員層・管理職層のいずれでも共通してみられるとされます。
※4 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
なぜ中小企業は離職率が高くなりやすいのか
これらの原因はいずれも企業規模を問わず起こりますが、30〜300名規模の中小企業では放置されやすく、表面化しがちです。背景には、次のような中小企業ならではの事情があります。
- 人事制度が整っていない:評価・等級・報酬の仕組みが未整備で、納得感を担保しにくい
- マネージャーが育っていない:上司が研修を受けないまま現場のプレイングマネージャーになっている
- 業務が属人化している:特定の人に負荷が集中し、その人が辞めると連鎖しやすい
- キャリアの選択肢が少ない:ポストが限られ、成長機会を社内で示しにくい
- 採用力で大企業に劣る:抜けた穴を埋めにくく、残った人の負担が増える
つまり中小企業の離職は、「魅力がない」からではなく、原因に対する仕組みが追いついていないために起こります。裏を返せば、制度と運用を整えるだけで、改善の余地は大きいといえます。
なお、企業規模別の離職率は、厚生労働省「雇用動向調査」の統計表(e-Stat)で確認できます※5。自社の規模区分の数値とあわせてご確認ください。
※5 出典:厚生労働省「雇用動向調査」統計表(e-Stat)(2026年6月22日閲覧)
離職の「兆候」を見逃さない
離職率を下げるうえで最も効果的なのは、辞表が出る前に気づくことです。退職を決めた社員には、その前段階で行動の変化が表れます。代表的な兆候は以下のとおりです。
| 兆候の種類 | 具体的なサイン |
|---|---|
| 勤務態度 | 遅刻・早退・有休消化が急に増える、残業を避けるようになる |
| 仕事への姿勢 | 発言が減る、新しい仕事を引き受けなくなる、改善提案が止まる |
| コミュニケーション | 雑談や飲み会を避ける、上司との1on1で本音を話さなくなる |
| 業務の引き継ぎ | 自分の仕事を周囲に共有し始める、私物を整理し始める |
これらは一つひとつでは判断できませんが、複数が重なったときは要注意です。重要なのは、兆候に気づいた段階で、上司が責めるのではなく対話の場を持つことです。対応を誤ると、かえって退職を早めます。具体的な声のかけ方は、上司向けの記事で詳しく解説します。
離職率を下げる防止策|コストと効果で優先順位をつける
離職の原因がわかったら、次は対策の実行です。すべてを一度にやろうとすると現場が疲弊するため、コストと効果で優先順位をつけて着手しましょう。
下表は、代表的な防止策を「導入コスト」「期待できる効果」「着手の優先度」で整理したものです。優先度は、30〜300名規模の中小企業で、まず着手しやすく効果が出やすい順を目安にしています。
| 防止策 | 対応する原因 | 導入コスト | 期待効果 | 優先度 | よくある失敗 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1on1ミーティングの定例化 | 1 人間関係・7 不信 | 低 | 高 | ★★★ | 進捗確認の場になり本音を聞けない |
| 評価基準の明確化とフィードバック面談 | 2 評価・3 待遇 | 中 | 高 | ★★★ | 基準を作って終わり、運用で形骸化 |
| オンボーディングの仕組み化 | 6 立ち上がり支援 | 低〜中 | 中〜高 | ★★★ | 初日だけ手厚く、その後は放置 |
| 従業員サーベイで実態を可視化 | 全般(原因特定) | 低〜中 | 中〜高 | ★★★ | 集計して満足し、改善に着手しない |
| 労働時間・業務量の見える化と再配分 | 5 長時間労働 | 中 | 中〜高 | ★★ | 計測だけで偏った業務を再配分しない |
| マネージャー向けの育成研修 | 1 人間関係 | 中〜高 | 高 | ★★ | 単発研修で終わり現場で実践されない |
| キャリアパスの整備・社内公募 | 4 成長・キャリア | 中〜高 | 中 | ★★ | 制度はあるが運用実績がなく形だけ |
| 評価と報酬の連動ルールの整備 | 2 評価・3 待遇 | 高 | 中〜高 | ★ | 原資不足で昇給が伴わず不信を招く |
まず着手すべきは「低コスト・高効果」の3つ
まず着手したいのは、コストが低く効果が高い次の3つの施策です。
- 1on1の定例化:上司と部下が定期的に1対1で対話する場をつくり、人間関係の問題や将来不安を早期に把握する
- 評価面談の改善:評価の理由と今後の期待を「事実→評価→期待」の順で伝え、納得感を高める
- オンボーディングの仕組み化:入社後の受け入れ手順を決め、立ち上がり期の放置と早期離職を防ぐ
いずれも大きな予算を必要とせず、運用の工夫で始められます。施策の全体像を体系的に知りたい方は、施策をまとめた記事もあわせてご覧ください。
離職対策でやりがちな4つの失敗
施策は「やり方」を誤ると効果が出ません。現場でよく起きる失敗を先回りで押さえます。
- 給与だけで止めようとする:本音の不満は人間関係や納得感にあるため、昇給しても根本の課題は残る
- 施策を一度に詰め込む:現場が疲弊し中途半端に終わりやすいため、低コスト・高効果な施策から段階的に始める
- サーベイを取って終わる:可視化しても改善に動かなければ、社員の「言っても変わらない」という不信感を強め逆効果になる
- 退職面談の理由を鵜呑みにする:語られる理由と本音はずれるため、在職者の声を継続的に拾う仕組みで補う
実態の可視化から始めると対策を外さない
自社で何が起きているかは、推測ではなくデータで把握するのが確実です。退職面談で語られる理由は本音とずれるため、匿名の従業員サーベイで「辞める前の不満」を拾うと、対策を外しにくくなります。
サーベイや離職防止ツールには多くの種類があり、規模や目的によって向き不向きがあります。どう選べばよいかは、選び方の記事で整理しています。
離職率が高い原因に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、離職率が高い原因についてのよくある質問に回答します。
A. 一律の基準はありません。まずは厚生労働省の雇用動向調査による全体平均(令和7年で13.7%)を物差しにしつつ、自社と同じ業界・雇用形態の区分と比べるのが適切です※6。パートタイム比率が高い職場は数値が高めに出やすいため、構成をそろえて比較してください。
A. 公的統計では待遇や労働条件が上位に挙がりますが、本音を尋ねた調査では、人間関係が最も多く挙げられる傾向にあるとされています。会社に伝えられる理由と本音はずれることが多いため、両方を意識した分析が必要です。
A. 人事制度の未整備、マネージャー育成の遅れ、業務の属人化、キャリア選択肢の少なさなどが重なりやすいためです。いずれも仕組みで改善できる要素が多く、制度と運用を整えるほど改善余地は大きくなります。
A. コストが低く効果が高い順に、1on1の定例化、評価面談の改善、オンボーディングの仕組み化から着手するのがおすすめです。並行して、従業員サーベイで実態を可視化すると、対策を外しにくくなります。
A. 遅刻・早退・有休消化の増加、発言や提案の減少、雑談や面談での口数の減少、業務の引き継ぎや私物整理の開始などが代表的です。複数が重なったときは、責めずに対話の場を持ちましょう。
※6 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
まとめ:原因の構造を押さえ、低コストな施策から始める
離職率が高い会社の原因は、給与の絶対額よりも、人間関係・評価への納得感・成長実感の欠如に偏ります。会社が把握している退職理由は本音とずれやすいため、表面的な理由だけで対策を決めると失敗します。
中小企業で離職率が高くなりやすいのは、魅力がないからではなく、原因に対する仕組みが追いついていないためです。1on1・評価面談・オンボーディングといった低コストで効果の高い施策から着手し、サーベイで実態を可視化しながら改善を重ねましょう。
まずは自社の離職率を正確に把握し、原因の当たりをつけるところから始めてください。




