人事評価が低いと社員のやる気は下がってしまい、退職まで至る場合もあります。ただし、社員が辞める理由は評価の低さそのものではないことが多いです。理由がわからない、改善の道筋が見えないという運用上の欠陥が、退職の引き金になるといわれています。
この記事では、社員がやる気をなくす原因、退職につながる失敗パターン、具体的な改善手順について解説します。
辞めるのは「評価が低い人」ではなく「納得できない人」
人事評価をきっかけに辞める社員は、評価が低かったから辞めるわけではありません。低い評価の理由と、その後の改善策に納得できないまま期が終わることが引き金になります。
評価が低くても理由が明確で、上司から具体的なアドバイスがあり、挽回の道が見えていれば、社員はやる気を保ちやすくなります。反対に、評価が高くても基準があいまいで納得感がなければ、不信感は残ったままです。評価運用で手を入れる先は、評価の高低ではなく納得感(公平感と説明)です。
不満は評価点そのものよりも、基準の不明確さと説明不足に集まります。スマートキャンプ株式会社が2025年9月に実施した3,622人調査では、勤務先の評価制度に不満を持つ従業員が54.3%にのぼりました※1。不満理由の第1位は、従業員・管理職とも「評価基準があいまいでわかりにくい」でした。
評価運用を改善するときは、評価を甘くする方向ではなく、納得感を高める方向で考えましょう。
※1 出典:スマートキャンプ「人事評価に関する調査」2025年9月5日〜19日実施・n=3,622(2026年8月3日閲覧)
データで見る:人事評価への不満と退職の関係
人事評価への不満は、一部の社員に限った話ではありません。3,622人を対象とした調査では、従業員の54.3%・管理職の43.6%が自社の人事評価制度に不満があると回答しています※2。公的統計でも、評価に連動する処遇への不満は離職理由の上位に位置しています。
※2 出典:スマートキャンプ「人事評価に関する調査」2025年9月5日〜19日実施・n=3,622(2026年8月3日閲覧)
調査でわかっていること
不満の広がりと、退職理由としての位置づけを示す調査は次の2つです。
| 調査 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| スマートキャンプ「人事評価に関する調査」(2025年9月・n=3,622) | 働く人全般 | 評価制度に不満を持つ人は従業員54.3%・管理職43.6%。不満理由の第1位は「評価基準があいまいでわかりにくい」※3 |
| 厚生労働省 令和7年(2025年)雇用動向調査 | 転職入職者(全国) | 男性の離職理由は「給料等収入が少なかった」が9.9%で、定年・契約期間の満了に次ぐ実質的な上位※4 |
2つの調査から読み取れる内容は別々です。前者からは評価制度への不満がどこに集まるかが、後者からは処遇への不満が実際の離職理由の上位にあることがわかります。
※3 出典:スマートキャンプ「人事評価に関する調査」2025年9月5日〜19日実施・n=3,622(2026年8月3日閲覧)
※4 出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概要」(2026年9月26日閲覧)
退職理由としての「処遇・評価」
厚生労働省の令和7年(2025年)雇用動向調査では、転職入職者が前職を辞めた理由のうち、男性では「給料等収入が少なかった」が9.9%で、最多の「定年・契約期間の満了」に次ぐ実質的な上位に入っています。給与は評価結果と連動するため、評価への納得感の低さは処遇不満を経由して退職につながりやすいと考えられます。
不満がどう運用改善につながったかは、「人事評価制度の事例10選|ユニークな制度に学ぶ設計のヒント」で紹介している他社の取り組みも参考になります。
社員が人事評価でやる気をなくす6つの原因
人事評価で社員がやる気をなくす原因は、おおむね6つのパターンに分類できます。自社の運用に当てはまるものがないか確認してください。
| 原因 | 社員が感じること | 退職への近さ |
|---|---|---|
| 評価基準があいまい | 「何を頑張れば評価されるのか不明」 | 高 |
| 評価者によってブレる | 「上司ガチャで決まる」 | 高 |
| フィードバックがない/薄い | 「なぜこの評価か説明されない」 | 高 |
| 結果が処遇に反映されない | 「頑張っても給与が変わらない」 | 中〜高 |
| 期初の目標設定があいまい | 「そもそも何で測られるか不明」 | 中 |
| 評価が一方通行 | 「言い分を聞いてもらえない」 | 中 |
原因1:評価基準があいまい
評価基準のあいまいさは、6つのなかで最も影響が大きい原因です。何を達成すれば高評価になるのかが不明だと、社員は努力の方向を見失います。基準が言語化されていない、あるいは抽象的な言葉だけの場合に起こりがちな問題です。
期初の目標設定と評価項目の設計を丁寧に進めておけば、この原因の多くは避けられます。項目の作り方は「人事評価の項目サンプル一覧|等級・職種別の設計例と作り方」で解説しています。
原因2:評価者によって結果がブレる
評価者によるブレとは、同じ成果でも上司が変わると評価が変わる状態を指します。評価者の主観や評価エラーが放置されると、社員は「上司ガチャ」だと感じます。
代表的な評価エラーには、目立つ一面に評価全体が引きずられる「ハロー効果」、評価を甘くつけすぎる「寛大化傾向」、逆に厳しくつけすぎる「厳格化傾向」、差をつけず全員を中間評価に寄せる「中心化傾向」があります。評価者研修と評価会議(甘辛調整)が対策になります。
原因3:フィードバックがない、または薄い
フィードバックが薄い運用では、評価を伝えるだけで理由や改善点の説明がありません。点数だけ通知される、面談が5分で終わる、といった形が典型です。社員は「結局なぜこの評価なのか」がわからず、不信感だけが残ります。
原因4:結果が処遇や成長に反映されない
処遇に反映されない評価では、高評価でも昇給・昇格につながらず、低評価でも何も変わりません。評価が「ただの儀式」と受け取られ、努力する意味を見失わせます。処遇連動のルールの明示が必要です。
原因5:期初の目標設定があいまい
評価は期初の目標で決まります。目標が抽象的だと、期末にどう評価しても納得感は生まれません。目標管理(MBO)の設計は「人事評価×MBO(目標管理制度)とは?組み込み方を実務解説」で解説しています。
原因6:評価が一方通行
評価が一方通行とは、社員の自己評価や言い分を聞かず、上司の評価だけで決まる状態です。納得感は「説明を受けた」だけでなく「自分の声が反映された」と感じたときに高まります。自己評価のすり合わせや、必要に応じた多面評価の導入が有効です。
退職につながる「やってはいけない」失敗パターン
やる気を一気に下げてしまう失敗のパターンは5つあります。
失敗1:低評価を「結果だけ」通知する
低評価の通知は、結果だけを伝えて終わる形になりがちです。評価ランクだけを伝え、理由・根拠・改善策を示さないと、社員は人格否定と受け取りかねません。
改善策は、評価面談を「事実→評価→今後の期待」の順で進めることです。低評価ほど、具体的な行動レベルの説明を厚くしましょう。
失敗2:期末になって初めて基準を持ち出す
期初に共有していない基準で期末に評価すると、「後出し」と受け取られます。社員は防ぎようがなかったと感じ、納得しません。
改善策は、期初の目標設定時に評価項目・基準・ウェイトを合意し、記録に残すことです。期中に基準を変える場合も、その時点で説明しましょう。
失敗3:フィードバックを「ダメ出し」だけで終える
改善点ばかりを並べると、社員は前向きさを失います。よい点と課題のバランス、そして「次にどうすれば上がるか」を欠くと、面談は罰になります。
できている点を具体的に認めたうえで改善案は1〜2点に絞り、次期の行動計画に落とすことが対策になります。
失敗4:評価者間のばらつきを放置する
部署や上司ごとに甘辛が違うと、不公平感が一気に広がります。評価会議で全体を見渡し、基準をそろえる調整が必要です。
ばらつきは評価者本人にはまず見えません。自分の付けた評価の分布を他の評価者と並べて、初めて甘い側か厳しい側かがわかります。評価会議を開く前に、評価者ごとのランク分布を一覧にしておきましょう。議論の入口が「あなたは甘い」ではなく「この部署だけS評価が3割ある」という事実になり、感情的な対立を避けられます。
失敗5:エンゲージメントの低下サインを見逃す
評価面談のあとに現れる小さな変化は、離職の予兆の可能性があります。
- 評価面談のあとに発言が減る
- 1on1で目標への意欲が弱まる
- 報告・相談の頻度が下がる
こうした変化に気づいたら、1on1やパルスサーベイで継続的に状態を把握し、評価の納得度を確認しましょう。退職の兆候をより広く把握したい場合は「退職の兆候・サイン11選|上司が辞める前にとるべき対応」が参考になります。
やる気を失わせない評価運用の改善ステップ
納得感を高めてやる気の低下を防ぐ運用は、次の5ステップで組み立てられます。順番に進めると、評価が「努力の方向を示す道具」として機能しはじめます。
ステップ1:期初に評価基準と目標を合意する
評価項目・基準・ウェイトは、期初に明文化して本人と合意しましょう。「何を、どの水準でできれば、どの評価になるか」を言葉で残しておくことをおすすめします。目標と評価のひもづけを1枚で管理するなら、「目標管理シートの書き方|項目構成と職種別の記入例を紹介」が使えます。
ステップ2:期中に進捗を確認し、軌道修正する
評価を期末の一発勝負にしてはいけません。1on1や中間レビューで進捗を確認し、ずれがあれば早めに修正しましょう。期中に対話を重ねておくと、期末の評価は本人の想定の範囲に収まりやすくなります。
ステップ3:評価者の目線をそろえる
評価会議(キャリブレーション)を実施し、評価者間の甘辛を調整しましょう。あわせて評価者研修で、評価エラーの理解と事実ベースで評価する習慣の共有もおこないましょう。この2つが、「上司ガチャ」と受け取られる状態を減らす中核の取り組みになります。
評価者が少ない小規模企業では、部署をまたいだ評価会議を組みにくいことがあります。その場合は、経営者や人事責任者が全員の評価を横串でダブルチェックする、他部署の評価者と2名体制で見比べるといった簡易な形でも、目線合わせはできます。
ステップ4:フィードバック面談で納得感をつくる
面談では「事実→評価の根拠→次への期待」を順に伝えましょう。低評価のときほど、感情ではなく観察された事実に基づいて話します。社員の自己評価とのギャップは対話で埋めてください。コメントの言い回しは「人事評価コメント例文33選|上司向け段階・基準・状況別」が参考になります。
ステップ5:結果を処遇・育成につなげる
評価結果は昇給・昇格・育成計画に反映し、その連動を社員に説明しましょう。「評価が次にどうつながるか」が見えていれば、低評価を受けた社員も次の期に向けて動きやすくなります。改善が必要な人には、具体的な育成テーマを設定しましょう。
低評価は、解雇や退職勧奨を前提にした通告ではありません。次の期でどう挽回できるかを具体的に示し、育成テーマと期限を決めて再挑戦の機会をつくるところまでが、評価運用の役割です。
なお、評価結果に納得できないという申し出が出た場合の対応手順は、「人事評価への不服申し立て対応|人事が取るべき手順と再発防止」で扱っています。
制度設計から見直す場合に検討したい選択肢
運用改善だけでは限界がある場合、制度設計の見直しも選択肢になります。評価項目や評価欄の様式から手を入れるなら、「人事評価シートの作り方|項目の決め方と記入例を紹介」を土台にできます。
代表的な評価手法の特徴は次のとおりです。自社の課題に合うものを検討してください。
| 手法 | 向いている課題 | 留意点 |
|---|---|---|
| MBO(目標管理) | 目標と評価のひもづけを明確にしたい | 目標設定の質に成果が左右される |
| OKR | 挑戦的な目標で組織を動かしたい | 評価と直結させると保守的になりやすい |
| 360度評価 | 評価者の主観・偏りを是正したい | 運用負荷が高く、目的設計が必須 |
制度を見直す際は、いきなり全社展開せず、一部の部署で試行し、運用負荷と納得度を確かめてから広げると失敗を抑えられます。
各手法の詳細と自社への組み込み方は、「OKRと人事評価は分けるべきか|連動の判断基準と運用設計」と「360度評価とは|メリット・デメリットと失敗しない導入手順を解説」で解説しています。
低評価と退職に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、人事評価と退職の関係についてのよくある質問に回答します。
A. 結果だけを通知せず、「観察された事実→評価の根拠→次への期待」の順で伝えてください。低評価ほど具体的な行動レベルで説明し、改善点は1〜2点に絞りましょう。挽回の道筋が見えると、低評価でも前向きさを保ちやすくなります。
A. 遅くなりがちです。不満の多くは期末の評価結果ではなく、期初の基準合意と期中の対話の不足から生まれます。1on1や中間レビューで早めにずれを修正すると、不満が生まれる前に手を打てます。
A. 対策は2つです。評価会議(キャリブレーション)で甘辛を調整し、評価者研修で評価エラーへの理解をそろえます。あわせて基準とウェイトを明文化すると、全評価者が同じものさしを使えます。
A. 反映の度合いに唯一の正解はありません。評価が処遇にどうつながるかのルールを事前に明示し、社員が予測できる状態にしておきましょう。連動が不透明なままだと、評価の結果そのものが疑われやすくなります。
A. 規模が小さくても、評価基準と目標を期初に合意し、結果を説明する運用は有効です。複雑な制度は不要でも、納得感をつくる最低限の仕組み(基準の明文化・面談・処遇連動の説明)は、離職防止の観点で導入価値があります。
まとめ:低評価そのものより「納得感」を設計する
低い評価をつけられた社員が辞めるとき、辞表の理由に「評価が低かったから」と書かれることはまずありません。本人は点数そのものより、なぜその点になったのかを最後まで聞けなかった経緯に折り合いをつけられずにいます。評価そのものを甘くする必要はありません。低い評価を伝える場でこそ、根拠と次にすることを言葉にする時間を確保してください。




